いま現在、わたしたちの目の前に広がる大名庭園について、近代史のタイムラインから変遷を辿った貴重な史料集が登場した。
岡山「後楽園」、金沢「兼六園」、水戸「偕楽園」、高松「栗林公園」、彦根「玄宮楽々園」を中心とした構成で集められた史料は、江戸時代の地割絵図や鳥瞰図はもちろん、明治時代の観光絵葉書、近年の改修設計案や施工図、実測図、新聞広告、料亭営業時のパンフレット、鉄道開通による観光史料など多岐に渡る。パラパラとページを繰り眺めるだけで、活気あるこの時代の人々と、庭園を旅している気持ちになれる。
大名庭園を論じる書籍や研究の多くは、その成立時の背景や作庭意図、また藩主の代替わりによる庭園の変遷に着目したものとなっているが、現在では所有者が代わっていることがほとんどだ。また明治維新を契機とした法制度の再整備によって、「公園」として広く一般市民を迎え入れる、「文化財」として保護するべきなどの社会要請が、大名庭園の機能や施設を変化させてきたのは周知の通りだ。
一方で、これら近代に起こった変化によって、まさにこの「近代の変化」そのものを認識することが困難になってしまっている。本書はそのような研究課題に一石を投じるものとなっており、近代と現代をつなぐ視野を持つことの重要性を教えてくれる。
【庭NIWA 246号掲載】
小野芳朗・本康宏史・中嶋節子・三宅拓也=編著
発行/思文閣出版
定価/6,600円(税込)