今起きている、地方への移住、食や暮らしを見直し丁寧に生活すること、手づくりや手仕事への関心の高まり……といった生活改革ともいうべき静かなムーブメントの原点は、100年前のイギリスの思想にあったのだと気づかされる。本書は、コミュニティデザイナーとして活躍するstudio-Lの山崎 亮さんが思想的影響を受けたジョン・ラスキンやウィリアム・モリスなど、ヴィクトリア朝 時代のイギリスの活動家の生き方と考えを紹介している。中でも刺激的なのは、現在のstudio-Lの活動に絡めて、極めて現代的なモデルとして読み解いている点だろう。
ラスキンは産業革命によって、労働が分業化し、仕事に対する働く人の自由や喜びを奪っていることに批判的だった。彼が理想としたのは、中世のギルドやゴシック建築の職人の働き方だった。分業せずに一つの仕事の始めから終わりまで関わり、自分なりに工夫しながら責任を持って仕事を完成させるというスタイルは、山崎さんがstudio-Lで取り入れている働き方でもある。
モリスは料理や日曜大工といった日々の家事労働も芸術ととらえ、生活のあらゆる面を美しくするための行為を喜びとする暮らしや社会を理想とした。また、ナショナルトラストの創始者であるオクタヴィア・ヒルは、オープンスペースを提唱し、地域の共用空間としての緑がコミュニティを潤すことを発見した。彼らの実践は、経済合理性から距離を置き、暮らしを見つめ直そうという、現代のシンプルライフを支える指針になるだろう。
【庭NIWA 226号掲載】
山崎亮=著
発行/太田出版
2,400円(税別)