30年の蓄積 ディテールを読む『風景をつむぐディテール 土地・場所・時の設計図集』

 風景の輪郭は、ディテールへのまなざしによって形づくられる。本書は、日本のランドスケープデザインを先導してきたプレイスメディアによる51作品のディテールや思想をまとめた図面集である。30年にわたり蓄積されたディテールは、単なる造形ではない。デザインの実践には、クライアントの戦略や手法の理解が不可欠であり、社会の問題意識や価値観の反映が求められる。しかし、ディテールにテーマや戦略を落とし込む試みは多くない。その要因のひとつが、空間スケールの制約である。本書は、この制約から解放され、新たな展望を開く可能性を探る。

 構成の軸となるのは、「その場所ならではであること」「さまざまであること」「いき続けること」「しなやかであること」「物語があること」の5つのコンセプト。これは手法にとどまらず、社会との結びつきを映すテーマでもある。東京ガーデンテラス紀尾井町やGINZA SIX、南三陸町震災復興祈念公園、平等院鳳翔館、立教女学院などの多様な事例から、ディテールが風景を形づくる過程を読み解く。本書の特徴は、ディテールを技術的要素としてだけでなく、ランドスケープの思想や社会との関係性を映すものとしてとらえている点にある。寸法、素材、仕上げ、納まり、図示表現の一つひとつが示唆に富んでおり、設計者の視点を広げてくれそうだ。

 心惹かれる空間に立つと、無意識に細部に迫りたくなる。その感覚を受け止め、より深い思考へと導く本書。多様な人々との協働がディテールを支えるとするならば、設計者にとっては自分の意図を伝える心強い伴走者になるだろう。

【庭NIWA 259号掲載】

風景をつむぐディテール 土地・場所・時の設計図集
PLACEMEDIA=著
発行/学芸出版社
定価/3,960円(税込)

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