西欧芸術が生んだ 綺想に満ちた庭への旅『ヨーロッパ綺想庭園めぐり』歴史の中の庭を歩く

 庭園は、単なる美しい景観ではない。そこには時代の思想や権力、自然観が織り込まれてきた。著者は、庭園史・美術史の立場からヨーロッパの綺想庭園を巡り、ときに「非在」の庭までも遊歩しながら、その背景に潜む思想や物語を西欧史の文脈から読み解く。旅の始まりは『Bella giardiniera―《美しき女庭師》』と名付けられた一枚の絵画。庭園文化を生み出してきた人間の芸術的想像力が浮かび上がる。

 本書は神話の世界から古代・中世へと遡る。そしてルネサンスからバロック期にかけて、造園や園芸が芸術の域へと昇華された黄金期、さらに17世紀以降のフランスやイングランドにおける近代造園文化の成熟までをたどる。中でも印象的なのが第15章「お皿に盛られた楽園」である。ベルナール・パリシー(1510年頃~90年)は、蛇やカエル、昆虫など自然の生き物を立体的に表した陶器皿を制作し、自然観察に基づく独自の芸術を生み出した人物である。生々しい生命の造形は当時の権力者を魅了し、グロッタ(人工洞窟)や理想庭園など当時の庭園装飾とも関わっていく。一枚の皿から庭園へ。自然の神秘に魅せられた芸術家の綺想をたどると、作品や名画が庭の概念のもとに結びついていく。

 学術的な内容を扱いながらも、感覚的な描写が交わる独特な文体も本書の魅力。時代を超えて人間の想像力をかき立て、惹きつけてやまない「庭」という存在に改めて魅了される。名画名作の芸術の領域から庭園文化を読み解く思想史としても読み応えのある一冊。

【庭NIWA 263号掲載】

ヨーロッパ綺想庭園めぐり 歴史の中の庭を歩く

桑木野幸司=著
発行/白水社
定価/3,520円(税込)

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