「波」をつかむように 感性の建築家の歩み『建築というきっかけ』

 建築の現場と同じように、伝統的な庭の世界もその中心を長く男性が担ってきた。女性の姿も増えているとはいえ、現場にはなお偏りが残る。それでも現場を支え思考を共にしてきた女性の存在は確かにある。本書を紹介したいと思った理由も、そこにある。

 本書は、建築家・永山祐子氏のこれまでの歩みをたどると共に、現場に立ち続けるプロであるための仕事術が記されている。ドバイ万博、大阪・関西万博「ウーマンズ パビリオン」など、話題作を次々と手掛けてきた著者。世界的に注目を集める現在に至るまでの設計の軌跡に加え、二人の子どもを育てながらプロジェクトと向き合ってきた時間も率直に語られる。責任ある立場にありながらも、骨太でタフな業界を、力まず、しなやかに進んでいく。そのコミュニケーション力には、相手への敬意、粘り強さ、著者ならではの仕事術がにじむ。中でも印象的なのは、困難や想定外の状況との距離の取り方だ。「海を眺めるように」「海面はまあまあだな」と語る、その達観した視線。計画を形にして、船を進めるための心構えと技術が、本書全体を貫いている。母としての生活の手触りは、著者の建築が生む柔らかな光ともどこか通じ合い、研究者である父をはじめ、クライアントらの多様な語り手の声によって、永山祐子氏の輪郭が多層的に描き出される。

 建築家と母親の間を揺れながら、次の未来に向き合ってきた著者の姿。その言葉とまなざしは、いくつもの役割を抱えながら現場に立つ人に寄り添う一冊になるだろう。

【庭NIWA 262号掲載】

建築というきっかけ
永山祐子=著
発行/集英社新書
定価/1,199円(税込)

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