今わたしたちの身近にリアルに存在している庭園や公園に目を向けたとき、明治維新以後の文明開化と、それに伴う西欧文化的造園受容の影響は計り知れない。公園という新たな造園空間が生み出され、職能としての「造園家」、学問としての「造園学」が成立したのも「近代」だ。
本書は近代日本の「造園」「造園家」にフォーカスしながらも、適宜、日本や西洋の歴史的庭園の成立経緯や、アメリカのランドスケープ思想なども幅広く取り扱うことで、近代の庭園、広場、公園、遊園地、都市、風景地に関する基本的史実を概観することができる内容となっている。
江戸期の公共空間としての庭園の在り方、明治期の公園制度発祥、洋風造園の形成から黎明、そして明治後期~大正期、昭和期、戦後の高度経済成長期の造園事情についても述べられている。多数の関連図面や写真が配されており、より身近でリアルな過去として、これらの成り立ちが感じられるようになるだろう。
本書の内容は、気鋭の造園史家・粟野隆が、東京農業大学造園科学科2年次の学生を対象に必修科目「近代造園史」として講じているものだ。故に入門者に門戸を広く開いた書となっている。造園や建築、都市計画の専門家はもちろんのこと、庭園や建築を通した“歴史”を楽しむ人すべてが、近世日本史の基礎参考資料として傍らに置いておきたい一冊ではないだろうか。
【庭NIWA 233号掲載】
粟野隆=著
発行/建築資料研究社
2,300円(税別)