肩の力を抜いて読む 愉快な茶室巡り『ニッポン茶室ジャーニー』

 今号の特集「数寄の庭」に触れた後、さらに思考を深められる一冊。本書は、建築史家・異色の茶室建築家として知られる藤森照信氏と、お茶をこよなく愛するモデル・はな氏が全国の名茶室を訪ね、ユーモアたっぷりに語り合う。月刊『なごみ』(淡交社)連載「ニッポン茶室ジャーニー」の書籍化だ。

 2人の旅は、国宝・織田有楽斎の「如庵」から始まり、日本一窓が多い茶室「擁翠亭」やグルメな粋人・北村幽庵とインテリ茶匠・藤村庸軒が生み出した「天然図画亭」などを巡る。「偉大なるシロウト・半泥子の無茶苦茶」と題された「山里茶席」など、個性溢れる茶室が登場。軽妙な会話や茶室で心を遊ばせる2人の様子が写真からも伝わる。その姿から感じ取れる茶室のスケール感、藤森氏の手書きによる味わい深い見取り図、細部に注目した写真が想像をかき立てる。大胆奇抜かつ自由な発想が光る各茶室の旅の終わりには、はな氏のエッセイが添えられている。本書の最後には、藤森氏が設計した4つの茶室が登場する。2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催を記念し、世界中の人をもてなすためにつくられた「五庵」や、2本のクリの木の上に立つ「高過庵」など。その独創的な茶室を通じて、藤森氏の茶室観が見えてくる。

 はな氏は最後に「茶室は亭主の脳内でうごめくアイデアや思想を象った、イキモノでした」と語る。歴史上の人物がまるで友人かのように語られる本書は、茶室への親しみを与えると共に、名茶室が今も私たちに強く語りかける力を持つ空間であることを感じさせる。

【庭NIWA 259号掲載】

ニッポン茶室ジャーニー
藤森照信、はな=著
発行/淡交社
定価/2,420円(税込)

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