風景を楽しむ“ものさし”の源流を辿る18世紀英国の旅『ピクチャレスクとイギリス近代』

18世紀イギリスにおける風景式庭園や自然式庭園が、植物を扱う現場感覚から出てきたものではなく風景画(landscape)に大きな影響を受けて成り立ったことは、本誌読者であればご存じだろう。その根本にあった美的感覚や価値基準についての当時の“リアル”を、批評文や文学作品をはじめ、庭園論や建築書、紀行文などの膨大な文献史料から集め「ピクチャレスク」をキーワードに編み上げたのが本書だ。

「ピクチャレスク」を読み解くため、筆者が設定したテーマは「観光」「庭園」「建築」、そして終章は「ピクチャレスク農業」で締められている。これらのキーワードが、現在の庭園、造園やランドスケープに関連する対象と驚くほど一致していることからも、“未来の風景”を考える際に「ピクチャレスク」という“ものさし”が一助になるに違いない。

本書にて紹介される作品や史料を取り巻く時代背景には、イギリスの産業革命やユートピアとしての田園回帰、フランス革命、啓蒙主義思想などが横たわっており、これらがつくり手たちにどのような影響を与えたのかも詳細に考察されている。

現代のわれわれは、「絵になる風景を写真に収めたい」と各地を旅したり、眼前に広がる絶景を見て思わず「絵で見たような風景だ」と口にしてしまったりする。その行動の根底には、古今東西変わらない飽くなき“ピクチャレスクへの渇望”が流れ続けているのではないかと思わせられる。
【庭NIWA 246号掲載】

ピクチャレスクとイギリス近代 
今村隆男=著
発行/音羽書房鶴見書店
定価/4,180円(税込)

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