「風景画」として描かれ、人々に受容されてきた「風景」とは、一体何か? 人々は何を「見たい」と望んだのか? そして画家は何を考え、何をキャンバスに描き出したのか? “自然景観”や“環境デザイン”という意味で使われがちな「ランドスケープ」、すなわち「風景」という言葉そのものを、本来の意味に立ち戻って考えるきっかけを与えてくれるのが本書だ。
1章では、自然観と聖書的楽園観が一体となっていた時代から一転して、眼前の自然を受容する時代に突入した人々が「絵になる風景(ピクチャレスク)」を探し求める様、そして早世した画家ガーティンを視点に都市風景の受容背景が紹介される。2章では風景画家として著名なターナーの、人道主義的精神から描き出された“奴隷船”にまつわる海の表現、3章では普遍的で壮大な景観美を描く流派と自然観察を重視する流派の対立、4章では都市の不潔さや貧困を極めてドライに描いたホイッスラーの版画から、ルポタージュ的風景画の受容史が語られ、そして5章では、琳派や浮世絵に影響を受けた20世紀の前衛画家ルイスによる、戦地の風景描写が考察されている。
「風景」に対する社会や意識の変化、人々が流行り廃りに翻弄される様子などが時系列に沿ってひとつなぎに浮かび上がり、時代によって変遷する「視覚の欲望」の彷徨う様が炙り出される。読み終わる頃には「いったい“自然”とは、“風景=ランドスケープ”とは何なのだろうか?」―そんな疑問の袋小路にはまり込む楽しさに浸れることだろう。
【庭NIWA 237号掲載】
大石和欣、富岡進一、小野寺玲子、クリスティアナ・ペイン、要真理子=著 石井朗=企画構成
発行/ありな書房
4,500円(税別)