ピート・アウドルフ著『PLANTING: A NEW PERSPECTIVE』(2013)の邦訳版が登場した。原本発行から10余年、気候変動への意識や持続可能な庭づくりの需要が一層高まっていることから、彼のデザインは多くの業界に影響を与えている。その一方で、この植栽スタイルが「ローメンテナンス・ローコスト」として誤解されることも少なくない。そんな解釈の広がりが見られる今、本書は著者の植栽論の原点を再理解し、その本質に迫るきっかけを与えてくれる。 邦訳は、「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」のヘッドガーデナーである永村裕子氏が担当している。288ページの大型本であり、写真・図面・植栽リストといった実践的な情報に溢れ、設計者にとっては教科書のような濃密な内容だ。
「ブロック植栽からブレンド植栽へ」といった手法の考察や、「スキャッタープランツ」「リピートプランツ」といった植栽の階層を詳細に解説する。「多年草の建築様式」など、植物の形状や構造までも深く掘り下げつつ、自然発生性を核とした哲学を実践に応用する手法も示されている。さらに英国を代表するガーデンデザイナー、ダン・ピアソン氏をはじめ、関連する表現アプローチを持つ仲間の仕事にも触れ、時代の精神を浮かび上がらせている。
本書は緻密で高度な設計や知識に圧倒される内容でありながら、そこにある普遍的な構造や原理が見いだせる。それらは異なる環境や気候にも応用できる多くのヒントとなりそうだ。実践の現場と観察を重ねながら長く手元に置いておきたい必携の一冊。
ピート・アウドルフ、ノエル・キングズベリー=著
永村裕子=訳
発行/NHK出版
定価/5,940円(税込)