本書のサブタイトル「デジタル・アーカイヴの可能性」に今号の企画が関連しそうだと思い、手に取ってみた。しかしその思いは良い意味で裏切られた。本書はデジタルテクノロジーを使いアーカイヴするという試みを通して、著者がどのように庭園に向き合い考察してきたのか、新しい視座を持った庭園論が展開されている。
本書は3章で構成されている。1章では庭園史をひも解くことから始まる。概要を把握できたところで、著者の庭園論が展開される。その軸となっているのは「庭園を動的に捉える」ということだ。これまで日本庭園は「舞台装置」として静的に論じられてきたが、そこに一石を投じ、舞台芸術になぞらえ「上演」を切り口に庭園を論じている。2章では、著者が2019年から取り組む庭園アーカイヴ・プロジェクトのwebサイト「Incomplete Niwa Archives終わらない庭のアーカイヴ」や同名のインスタレーションについて具体的に記されている。「無鄰菴庭園」などなじみのある庭園での取り組みも紹介されていて興味深い。3章では、これまで庭園を記録してきたメディア(書物)や、庭園を描いてきた絵などの複製メディアについて考察したのち、現在進行中のプロジェクトについて述べながら日本庭園の未来を展望する。
著者は昨今、庭園に注目が集まっていると感じているという。建築界には少し前からその兆候があったが、批評界でもその動きが見られるという。本書で展開されている庭園論からこの傾向を考察してみるのも面白いかもしれない。
【庭NIWA 253号掲載】
原瑠璃彦=著
発行/ハヤカワ新書
定価/1,056円(税込)