石と人間の交感 東北の石神様を巡る『東北石神様百選』

石を美しく思ったのはいったいいつごろだろうか。たたずむ神秘的な姿に力を感じ、願い、尊び、心を寄せる経験を私たちはいつしかしている。長年、東北の地で石材業を営み、石文化の継承に励んできた筆者。東北における信仰の対象となっている岩石を実際に訪ねまわる。石と人間が交感し合ってきた長い歳月の跡を辿り、100ヵ所を紹介するコラム集である。

本書で印象深く残る言葉を1つ抜粋したい。岩手県増沢の立石神社を訪れ、筆者はこう語る。「圧倒的な存在感を持つ巨石を前にすると、やはり石は対峙する人間に対して神秘的なエネルギーを放っているといつも思ってしまう。それを感じるか感じないかは、人間の方の感受性の問題で、石はいつも人間の心に作用し続けている」。この地で五穀豊穣と家内安全の神様として祀られ、人々の信仰の場、心の拠り所となってきた石神様。ここで紹介される、さまざまな様相で鎮座する石とそこで生まれた言い伝えを知ることは、時間軸を広げ、言葉を超えた人間の想像力にゆだねられた部分を期待されているようである。

石に内包されるものと人間の関係をみつめる。本書をとおして、生きる石を目の前に「何か」を感じる力は、古代の信仰に留まらず、あらゆる時を生きてきた人との心のつながりのなかで、脈々と根付いているものだと気付く。私たちはあらためて石を見て何を思い、守り、これから何をつくるべきかを考えさせられる一冊である。
【庭NIWA 253号掲載】

東北石神様百選 
山田政博=編・著
発行/プランニング・オフィス社
定価/2,200円(税込)

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事