
日本初の環境建築家と称される藤井厚二。49歳という早世でありながら、数寄屋の美と近代的合理を融合させた1928年竣工の自邸「聴竹居」(国の重要文化財)は、その集大成にして代表作である。竣工後100年を迎える今、その名建築の全貌を包括的に記録した書籍が発売された。
大正末期から昭和初期にかけての日本建築界にあって、日本の気候風土と欧米の住まいに学んだ美を追求した試みは、今も色褪せることなく私たちを引きつける。図面や資料、300点にも及ぶ写真が収められ、全景をはじめ、建築、庭、そして細部のディテールまでを俯瞰できる構成となっている。藤井が掛け合わせた「畳の文化」と「椅子の文化」に象徴されるように、日本文化に根ざす美と西洋がもたらした近代文化、その二つの間を揺れ動く。そんな「住まう器(住宅)」への強いまなざしをもって新たな次元を切り開いた空間が楽しめる。不思議めいた空間の魅力を、聴竹居に強い思いを寄せてきた二人の言葉とともに読み解く。著者・小林浩志氏は長年にわたり聴竹居に通い撮影し、魅力を伝えてきた人物の一人。ともに監修・松隈 章氏は、学術的な視点で藤井の人物像と空間に言葉を寄せている。四季の移ろいを映し出す豊富な写真が魅力で、専門家のみならず一般の読者にも手に取ってほしい書籍だ。
100年を経てもなお新鮮に響く、自然とともに生きる建築の姿。その思想が随所に息づく褪せない建築を学びつつ、住まいの美と愉しさに一呼吸おけるような一冊である。
聴竹居 本屋・閑室・茶室 100年目の全貌小林浩志=著
松隈章=監修
発行/建築資料研究社
定価/5,500円(税込)










