言葉からとらえ直す日本庭園の姿『日本庭園のフォスタリング』〈こころとわざ〉の継承と創造

 京の庭師、植彌加藤造園・加藤友規氏が日本庭園に連ねた言葉「フォスタリング」。本書は、これまで手入れや維持管理と呼ばれてきた庭師の営みを、日本庭園独特の理念「景色をはぐくむ」という行為としてとらえ直し、庭の本質的価値に迫る。実践の知と研究の視座、そして庭師の生業に息づく暗黙知を「フォスタリング(fostering/育てる、育む)」という言葉に託し、日本庭園の継承と創造を提示する。

 著者は、日常的・定期的・偶発的・突発的という四つの状況における庭の営み全てを「景色をはぐくむこと」と定義する。その視点から無鄰菴や南禅寺の事例を通じて管理の変遷や修復の過程が紹介され、読者はその歩みを具体的にたどることができる。フォスタリングは庭師だけでなく、研究者や広報、地域社会まで多様な関わりによって支えられるという。さらに、自然災害が絶えない現代での文化財庭園の修復的フォスタリングにおいて、その対応や記録の重要性が説かれる。「何を基準として現在の景を保つのか、または変えていくのか。これは判断する人間に委ねられている」。随所で響いてくるのは、有限の命を生きる私たちと時を超えて存続する庭との対比。資料と現場の往復、先人への敬意と継承の責任が言葉としてあらわれ、文化財庭園に息づく時間の重なりをより深く実感させてくれる。

 筆者が掲げた「フォスタリング」の言葉に込められた「創造する伝統」への願い。庭園文化の継承と創造を考えるうえでの必読書である。

【庭NIWA 261号掲載】

日本庭園のフォスタリング
加藤友規=著
発行/昭和堂
定価/2,640円(税込)

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Xでフォローしよう

おすすめの記事