一般的に多くの人が思い描く、色とりどりの野趣 れる花壇設計による「イングリッシュ・ガーデン」が、イギリス古来の伝統的な様式ではないことをお伝えして、施主から驚かれた造園家の方は多いのではないだろうか。
歴史的風景画をもとに“ピクチャレスク”を追い求めた初期英国式庭園は、珍重される異国の植物を多数栽培し庭師が最大限腕をふるった色彩鮮やかな “ガーデネスク”へ流行が変化。イギリスの気候にあ った植物を用い、色彩理論に基づき花壇設計による現在の「イングリッシュ・ガーデン」の祖となるものが出てきたのは、19 ~ 20世紀頃となる。この創始者と言われるのが本書の主人公、ガートルード・ジーキルだ。
「どんな人工的な植栽も、自然が植えたものにはかなわない」「庭をつくるのは絵を描くようなものだ」と著書で述べるジーキルの植栽計画は、土を見て植える植物を決定し、多年草を好んで用い、一年草を植え替え楽しむ当時の流行に反して、季節によって植栽の色の移り変わりを楽しむことを提唱した。美術学校で学んだ色彩論を庭に応用した著書『Colour Schemes for the Flower Garden』(邦題『ジーキルの美しい庭 花の庭の色彩計画』平凡社刊)は、現代にも影響を与え続けている。
本作は「ヴィクトリア朝の女性キャリア」シリーズの第2弾として発刊された。女性が職業につくことなど望めない19世紀ヴィクトリア朝下の英国で、ジョン・ラスキンやウィリアム・モリス等の同世代人としてのジーキルが、庭園家としてどのようにして手に職をつけ、実績を上げたのか、社会的背景や思想も含めて概観できる著作となっている。
【庭NIWA 242号掲載】
川端有子=著
発行/玉川大学出版部
定価/3,300円(税込)