猛暑をしのぐ緑の日傘 自然樹形と樹冠最大化『街路樹が都市をつくる』東京五輪マラソンコースを歩いて

慶応元年に近江にて創業した「花文」こと山村家は、五代150有余年にわたり家業である造園業を営む。初代山村家に逗留していたと言われる勝元宗益は、遠州流茶道で名を馳せている人物だが、南画・俳句・和歌・華道から医術にも通じた才に秀でた偉人で、築庭では号を「鈍穴」としていた。この鈍穴に師事した山村家が、五代目の現在に至るまで保管してきた膨大な資料を1冊にまとめたものが本書だ。

「鈍穴流」開祖である勝元宗益が直筆でその奥義を記した『庭造図絵秘伝』『茶室囲庭造秘伝記 中』『神道庭造並席囲寸法録 下』や、「庭景図」などの絵図が豊富に掲載されており、史料の原文写真と共に翻刻文も掲載。誰もが原文に触れられるよう編集されている。

本書では宗益から五代目まで、時代をまたいでつくられた庭園作品から代表的な39の庭の概要が豊富な写真と共に紹介されており、その内容は近江商人屋敷から神社仏閣、別荘など多岐にわたっている。
また特筆すべきは、手掛けた庭園それぞれに使用された材料(庭石、燈籠、植木など)の種類や単価が記録された「大福帳」をはじめとした史料が公開されていることだろう。材料単価や職人の手間賃、また庭園材料の仕入れ先など、リアルな記録と共に近江商人達の庭に関する歴史が浮かび上がってくる。
【庭NIWA 237号掲載】

街路樹が都市をつくる 東京五輪マラソンコースを歩いて 
藤井英二郎=著
発行/岩波書店
1,700円(税別)

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