明治時代は、武家社会が支えてきた伝統的な江戸の園芸文化、庭園文化が崩壊し、それに変わって、近現代園芸、都市公園事業が台頭した。政府は富国強兵・殖産興業策の一環として、日本の植物や盆栽、庭園の輸出と欧米の園芸植物や資材の輸入という海外交易事業を進めた。さらに、西洋風の街づくりや建築様式、ライフスタイルに合わせた園芸や造園手法の変化も起こった。
本書は、日本と海外の園芸文化・ビジネスの橋渡し役となり、国内の近代園芸、洋種園芸を推進した日本園芸会や横浜植木の活動を中心に、街路樹、屋上緑化、室内緑化など、現代の緑化につながる萌芽をまとめている。興味深いのは、「芝棟から屋上庭園へ」の章で、日本最古の屋上庭園として、1861〜64年の文久年間につくられた函館の妓楼「武蔵野楼」を紹介していること。従来の定説を覆す幕末〜明治初期の屋上庭園の錦絵や写真が見られる。
また、「花と緑の文明開化の牽引者」という大隈重信邸のコンサバトリーにおける豪奢な室内緑化の写真と絵など、貴重なビジュアル資料が満載。
【庭NIWA 229号掲載】
近藤三雄・平野正裕=著 協力=横浜植木
発行/誠文堂新光社
3,500円(税別)