庭2019年秋号No.236
連載-未来を植える人びと-第8回
取材・文=梶原博子


現場で培った生産技術で造園デザイナーをサポート

かつての武蔵国、現在の埼玉県さいたま市から川口市にかけて「見沼」という巨大な沼があった。現在、沼は消滅したがその地域には広い田んぼや畑があり、さまざまな農業が営まれている。今回はこの地でシクラメンの生産直売と植木苗木生産を行う笠原園芸を訪ねた。

 JR武蔵野線・東浦和駅から車を走らせること15分、田んぼや畑が並ぶ農地が目の前に広がる。埼玉県さいたま市緑区見沼地区はかつては沼地であり、周囲には江戸まで流れる運河があって、流通に便利だったことから農地として栄えた場所である。現在もこの地は国が農地として認定し、宅地化されずに米や野菜、花苗などが生産されている。今回、この一角でシクラメンの生産直売と植木苗木生産を行う笠原園芸を訪ねた。大きなビニールハウスが立ち並び、その中で何人かのパートの女性達が熱心にポットの入れ替えや水やりに専念している。
 「いらっしゃい。水やりが終わるまでちょっと待っていてくださいね」。そういって植木苗木にホースで水やりをしていたのが同社代表の笠原勇さんだ。ドウダンツツジ、キンモクセイ、シラカシ、サザンカなど、巨大な平台に乗せられた植木のポット苗はこのハウスだけで何百ケースもあるようだ。ポット数だけ見れば1万個は超えるだろう。「気候が良くなってきたから、この苗木はそろそろ外に出して仮植する頃かな。そうすると台が空くからシクラメンの苗木をこっちに移して、また新しい苗木の仕込みに入ります」といいながら、笠原さんはハウス内を案内してくれた。

2年間のアメリカ修業

 笠原園芸は、笠原さんの祖父が野菜や米の生産を始めたことをきっかけに創業。昭和40年代になると、その息子で笠原さんの父親は20歳の時に・・・記事の続きは、庭No.236の紙版・電子版で。

さいたま市緑区見沼地区にある笠原園芸のビニールハウス。6haの敷地に6戸のハウスが立ち並ぶ。
冬の出荷を控えるシクラメン。笠原園芸では約50品種のシクラメンの生産に当たる。
緑演舎が経営する植物とアートを融合させたプロダクトを販売する「PIANTA×STANZA茅場町」。ファサードの壁面緑化に笠原園芸で育てた植物をピクセルポットに植えて仕上げている。
笠原園芸では約100品種の植木苗木の生産を行う。
笠原園芸の屋外農場。根腐れしないように特別な土を使っているため、スプリンクラーでたっぷり水やりをしても生育に影響はない。
シルバーリーフが美しいシマグミ。寒さに強い常緑樹。笠原園芸では大きめの苗木の引き合いが多い人気の樹種。
ブランピーディーインゴット。黄金色の葉と紫色の花のコントラストが美しい。
ゴンフォスティグマ。寒さに強く冬場にも育つ常緑樹。すらっとした樹形のため、ローズマリーよりも葉張りが少なく、敷地幅が狭い場所にも植えられるため重宝されている。
ビバーナムシナモミホリュウム。あまり流通していない珍しい品種で、ビバ ーナムダビディーが樹高1.5m程度に比べてこれは4mまで成長。寒さに強く、大ぶりの葉が特徴。笠原さん曰く「マニアック」な品種だが、使いやすく今後人気が出そうな注目の樹種だ。
笠原勇(かさはら・いさむ)

笠原勇
かさはら・いさむ|笠原園芸取締役。1971年埼玉県生まれ。1991年埼玉農業大学校園芸科卒業。その後渡米し、2年間アメリカ各地のナーサリーで研修。帰国後、笠原園芸入社。約50品種のシクラメンの生産と直売、約100品種の植木苗木生産を行う。造園家やガーデナーの信頼が厚く、壁面緑化用の植物の生産にも力を注いでいる。
笠原園芸(埼玉県さいたま市)

       【地図から探す植木生産者】

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