庭2024年冬号No.257
連載-未来を植える人びと-第29回
取材・文=梶原博子
庭づくりのヒントが詰まった
森の中の植木圃場
東京の奥座敷、青梅市で4代にわたって山林苗、植木生産業を営む長寿園。代表の大野富久さんは生産を、富久さんの長男で4代目の大野寿樹さんは、修業先の造園会社で培った技術で施工にも取り組み、親子2代で東京の庭づくりを支える。
知られざる東京の植木生産地
東京の西部に位置する青梅市は、山林が7割、平地が3割の、豊かな自然に囲まれた地域である。今回訪問した長寿園は、大正時代に山林苗の生産を機に創業した。圃場を案内してくれたのは、4代目、大野寿樹さんで、現社長で父親の大野富久さんと共に、植木の生産と卸売り販売、造園施工を行う。
東京の植木生産地と言えば、小金井、国分寺、三鷹、西東京、調布、府中、立川など多摩地域が中心で、全国で三番目の植木生産のシェアを誇る。青梅地区は戦前から山林種苗生産を営む農家が多く、東京オリンピックの頃から、山林種苗農家が植木づくりも始めたと言われている。関東ローム層の肥沃な黒ボク土壌で、水はけも良く、植木生産に適した土地である。気温や雨量は1年を通して都心とほぼ変わらないが、近年はフェーン現象の影響で東京都心部よりも気温が高くなることも多いという。
「最初は、山に生えている樹木から種を取り、サワラやヒサカキ、イロハモミジ、カシ類、ヤブツバキなどをつくり、その後はハナミズキやサツキ、ツツジ類へと移り変わり、現在は低木から高木までのさまざまな樹種と、コニファー、シマトネリコ、オリーブなども生産しています」と大野さんは話す。長寿園は、平地の畑と里山の畑、山の畑を持ち、植生に応じた環境で植木生産と管理を行っている。
大野さんは高校生までは家業を継ぐことは考えていなかったが、父と同じ東京農業大学造園科学科に進学を決意したところで、この仕事を継ぐ覚悟を決めた。「大学時代は、学園祭の実行委員会に力を入れていて、あまり植木や造園について深く勉強はしてこなかったんです。卒業後に都内の造園会社に修業に出て、5年間現場で造園について学んでから、家業に入りました。それまで弊社では生産が中心だったのですが、私が造園工事もできるようになったので、今は生産と卸売り販売のほかに、造園工事という柱が増え、忙しいですがやりがいがあります」・・・記事の続きは、庭No.257の紙版・電子版で。
大野寿樹
おおの・としき│1990年東京都青梅市生まれ。2011年東京農業大学造園科学科卒業。同年東京都内の造園会社に入社。5年間の修業を経て、長寿園入社。青梅市内に10箇所ほどの圃場を持ち、総面積2haの畑で、落葉樹を中心に約200品種の植木の生産・管理を行う。
長寿園(東京都東青梅市)