現代の師弟関係からみる職人という世界『師弟百景』“技”をつないでいく職人という生き方

「背中を見て覚えろ」から「背中も見せるが、口でも教える」に。職人世界の風潮の変化を感じている方も多いのではないだろうか。また追い風とも言えるように、現代社会の仕事への価値観は、より“個を尊重する働き方”へと向かい、「職人」という存在に注目が置かれ始めているという。そんな今に、時代の流れとともにある伝統や技術を受けつぐ様を見つめる一冊である。

本書は、変わりつつある職人世界の師弟関係を取材したものである。庭師、染織家、左官、江戸木版画彫師、英国靴職人、茅葺き職人など、技をつなぐ16組が紹介される。各章においては師匠と弟子、両者の視点でライフストーリーが展開される。師匠が振り返る自身の弟子時代、この道との出合い、技に向き合う姿勢や時間、心に留めた言葉が語られる。次に後を追うように門をたたいた弟子のストーリーが続き、現代における「伝承」の有り様が映し出される。強く残る職人像、気難しさや寡黙なだけではない師弟間のコミュニケーションや、ものへの向き合い方、1日の仕事の流れなど、リアルな現場の様子を筆者は伝える。一子相伝ではなくなった現在、弟子入りまでのストーリーの多様さと熱意は、これから道を選ぶ人にとっても刺激的である。いくつもの先人の「生きた言葉」に出合えるのも本書の魅力である。

師匠は弟子を見て何を想い、弟子は師匠を見て何を感じ取っているのか。紡がれる新しい師弟関係の在り方が、職人という独特な「気」を残しつつも、新しい生き方や職人世界への入り口をユニークに広げることを期待させる。「好き」を生きる愛される植物学者を語る。
【庭NIWA 252号掲載】

師弟百景 “技”をつないでいく職人という生き方 
井上理津子=著
発行/辰巳出版
定価/1,760円(税込)

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