「好き」を生きる愛される植物学者を語る『われらの牧野富太郎!』

94年の生涯にわたって日本中を巡り、植物採集・標本を残し、植物分類学の基礎を築いた牧野富太郎。「日本の植物学の父」ともいわれる牧野博士がモデルとなる、NHK連続テレビ小説『らんまん』が話題になる今日である。

本書はそんな牧野博士の人生を辿るとともに、今もなお取り巻く周囲の人々に焦点を当て、あらゆる角度から「牧野富太郎」という人物像を浮かび上がらせる。ゆかりある人物や博士の魅力を追う豊かな関係者がそれぞれの切り口で語っていく。その中では、『らんまん』の植物監修を担当する田中伸幸氏やスタッフが向き合う、植物を扱うドラマ制作における難しさにも触れている。脚本家・長田育恵氏のインタビューでは、この時代に植物と人間を重ね合わせる物語の意味を問う、強いメッセージも綴られている。

また本書の面白さは、視覚的にも牧野博士のクリエイティビティを堪能できることにもある。植物画・標本はもちろん、言葉、蔵書や詩歌、蔵書印のデザインなどを、遊び心とアートの視点で読み解いていく。その他、当時の植物採集会をヒントにして現代的に再現した「プランツパーティー」の様子や、牧野植物園のガイドマップ紹介、高知の植物を巡る旅など豊富な特集もある。

植物への一途な探究や「好き」を貫いた人生観は、世代を超えて、みどりの世界への温かい眼差しを生むであろう。わずかでも社会の意識が変化しようとする時、その影響力をどのように展開できるか、愛される植物学者・牧野富太郎を語り合う人々から探ってみたい。
【庭NIWA 252号掲載】

われらの牧野富太郎! 
いとうせいこう=監修
発行/毎日新聞出版
定価/2,420円(税込)

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