本書のタイトル『プランタ・サピエンス』から、「賢い植物」と直訳して「植物たちの驚くべき生態について書かれた本だろう」と思い、手に取った。しかし、本書の軸はそこではなかった。ひまわりのような向日性植物が曇りの日であっても太陽の位置を正確に把握して花の向きを変えていくとか、夜間に昼間の倍速で西から東へ180°方向転換するといったことなど、「確かにすごいよね」と思うことを例に挙げながら、それら植物の営みを人間目線ではなく、植物目線で解き明かそうとする試みである。
植物目線とはどういうことか。それはこれまで知性のない下等な生物として扱われてきた植物が生み出す現象を、植物が繰り広げる知的活動という視点でとらえ直すということだ。つまり、植物を知的生命体であると認めるということである。それは、世界的な課題となっている生態系の危機を克服するための、新しい視点になると筆者はいう。人間中心で行き詰まりを見せているさまざまな事柄に対して、全く別の視点……いわゆるシナプスを持たない生命体による知的活動を研究することは、人間という生命体を相対化し、本質的な課題解決につなげていくための思索とも言えるのではないだろうか。
筆者は植物学者ではなく、科学哲学者だ。だからこそ分野横断的な視点を持つことができたのだろう。植物を知的生命体ととらえることについては、議論が始まったばかりのようだ。この先進的な研究の行く末に興味を抱き続けたくなる、そんな一冊である。
【庭NIWA 252号掲載】
パコ・カルボ+ナタリー・ローレンス=著 山田美明=訳
発行/KADOKAWA
定価/2,860円(税込)