古典の名作とされる千利休や小堀遠州の茶室から伝統と刷新の間まで、多様な形態表現が展開された作品33選が完全英訳付きで紹介されている。後の数寄屋や近代の空間表現において茶室を参照していると思われる建築も含まれ、時代の変遷と共にある茶室の魅力を読み解くことができる。
ゲスト・エディターには、建築歴史意匠、茶の湯文化、伝統建築保存活用を専門とする桐浴邦夫氏を迎えている。細部にわたる図面資料と共に、テキストは「自然との関係」をキーワードとして展開されている。写真が映し出す光の移ろいや奥行き、素材感は、隅々まで読者の目を引きつける。それぞれの空間をより深く、主体的に読み解くことを促されるような構成である。本書後半では、茶会における作法や設えの基本までが丁寧に解説されており、入門者にとっても茶室の世界への入り口となる書だ。
桐浴氏の「自然を映した建築」などのエッセイ、建築家 石上純也氏との対談「モノとしての茶室」は、自然と深く関わりを持ちながら独特な世界観を築き上げてきた日本人の自然観、茶の湯空間の持つ人間の文化的側面もみつめている。また、茶室を空間的概念から「モノ」としてとらえ直すことの先に見える、現代的な価値観につながる新しい解釈にも注目したい。
人の心と時代と共にある茶室。環境問題や人間の精神的な問題が引き起こす、さまざまな社会課題などが提示されている現代に読み直す茶室史は、より本質的な価値を浮かび上がらせ、新しい文脈をも見いだす予感がする。
【庭NIWA 251号掲載】
a+u 2022年11月臨時増刊号
発行/エー・アンド・ユー
定価/4,950円(税込)