一見、いかにも「入門者向けです」という顔をしたムック本である本書。しかし、表紙に取り上げられているのは静岡の三島市立公園 楽寿園であり、裏表紙を飾るのは、東京の旧古河庭園に加え、福島の御薬園、そして和歌山城 西之丸庭園の景観だ。このチョイスに「本当に入門書なのだろうか」と、少しの違和感を覚える小誌読者は多いかもしれない。
本書では、桂離宮、無鄰菴、新宿御苑、旧安田庭園、旧三井家下鴨別邸など、多くの名庭が残る京都や東京の庭園群のみならず、楽山園、養浩館庭園、玄宮園・楽々園、天赦園、水前寺成趣園、識名園、明治記念大磯邸園、旧伊藤博文金沢別邸など、旧藩主や豪商、政界・財界の名門や華族が築いた全国の庭の紹介に、多くの誌面を割いている。
文化財登録状況や発掘調査の時期、整備状況を盛り込んだ紹介文が多いのは、日本全国の文化財庭園を中心とする遺跡の保存修復・整備に長年取り組んできた監修者ならではの構成とも言えそうだ。過去の遺物としての庭ではなく、未来に庭を残そうと営みを続ける方々の仕事ぶりが本書から垣間見え、現代の私たちが未来に庭を残していくことを考える際の、調査報告書も含めた“歩くべき庭”ラインアップとして活用したい一冊だ。
【庭NIWA 248号掲載】
仲 隆裕=監修
発行/宝島社
定価/1,320円(税込)