イサム・ノグチ。アメリカ人と日本人の間に生まれ、日米のみならず世界を股にかけ、20世紀に活躍した彫刻家である。公共空間における数々の彫刻作品はもちろん、庭園、モエレ沼公園など人々が集う場における空間デザインも多い。
世界恐慌、第二次世界大戦、そして冷戦──この激動の20世紀アメリカにて、日系アメリカ人としてニューヨークでキャリアを築いたノグチ。「場所」の文脈が重要となってくる空間デザインにおいて、ノグチはアメリカのプロジェクトに多く関わってきた。
しかしその出自やコスモポリタンとしてのポジティブな印象から、アメリカという特定の場所について注目してノグチを解き明かした研究は少なかったようだ。本書ではノグチとアメリカ社会の深い関わりやその影響について明らかにし、どのような文脈で最終的な作品として昇華したのか、実現しなかった数々のプロジェクトも含めて詳細に紹介している。
当時のアメリカが抱える社会課題に対してノグチがどのように思考し、また対峙してきたかという“プロセス”を見直すことは、この21世紀、目前で起こっている世界的感染症の危機の時代においても、思考を深める助けとなってくれそうだ。
【庭NIWA 246号掲載】
松木裕美=著
発行/淡交社
定価/2,970円(税込)