岐阜県神岡町。ここに、室町から戦国時代にかけて北飛騨を治めていたといわれる江馬氏の庭園遺構を持つ「江馬氏城館跡」がある。中世武家館の様相を窺い知ることのできる遺跡として1980年に国の史跡に指定され、その後、下館跡の庭園、庭園を観賞する会所、主門、土塀などを復元し、2017年に「江馬氏館跡庭園」が国の名勝として指定された。
これらの発掘調査から復元、そして一般公開に至るまでの歩みを、当時の史料や調査内容などからつぶさに辿ったのが本書だ。飛騨の雄大な山々を借景として構成された庭園の、復元整備された様子は、思わず息をのむ程の空間の広がりを感じさせる。
神岡鉱山は、古くは奈良時代から採掘の記録があり、東洋一の亜鉛鉱山として栄えた時代もあるが、排出されたカドミウムは飛騨越中を結ぶ神通川の水や流域を汚染した。汚染物質対策としての土地改良工事の対象地に、地元で「江馬の殿さまの館跡」と伝わる水田も含まれていたという。
もし、当時の神岡町文化財担当者が工事の事前調査を行うことを訴えなかったら、そして庭園研究者である森蘊に見解を求めなかったら、この貴重な史跡は知られぬまま土中に還る運命だったかもしれない。
全国で初めて、公害裁判としてイタイイタイ病の被害住民が勝訴してから、今年で50年。神岡に流れる長い歴史の重みを感じるために、飛騨へ足を運びたくなる一冊だ。
【庭NIWA 245号掲載】
三好清超=著
発行/新泉社
定価/1,760円(税込)