アンドレ・シトロエン公園、アンリ・マティス公園、レイヨルの園など、フランス国内外で多くの公園や庭を手掛ける“庭師”ジル・クレマンが、著作『動いている庭』日本語訳刊行に合わせ来日、東京と京都で2015年に行われた連続講演会での語りを収めたのが本書だ。
古今の名庭園の歴史を有する京都での初回講演では、クレマンの核心的なコンセプトである「動いている庭」をテーマに据えている。「西洋の古典的なモデルとは完全に断絶している」と述べる、生態系のエネルギーを借り、なるべく逆らわない庭づくりについて、手入れの様子などを交えながら語った。
総合地球環境学研究所での講演では、“動いている庭”を地球規模に広げた「地球という庭」というコンセプトについて、生態系を概観する視点から、手掛けた公園や展示を紹介している。そして、東京という都心での講演では「都市のビオロジー」をテーマに、クレマンが手掛ける都市公園を始め、アジア諸国を含む実際に訪問した数々の都市における、生物多様性について語っている。
クレマンは、このほぼ初と言える日本滞在にて、さまざまな驚きを得たようだ。植物の青さに固執せず枯れ草の色もまた是として楽しむ感覚、自国で無名の昆虫学者ファーブルが小学生に読まれている驚きなど、所々に挿入される視点が印象的だ。
2015年の講演会から6年。長い時間をかけ、クレマンの語り口や講演会の臨場感や活気を紙面で伝えようと尽くした本書もまた、資料集と講演録のあわいを動く─ “en mouvement”というコンセプトを共有しているように見える。
【庭NIWA 244号掲載】
ジル・クレマン=著 秋山研吉=訳
発行/あいり出版
定価/2,200円(税込)