イタリア・ルネサンスにおいて、莫大な財を注ぎ込みつくられた広大な庭園群は、最先端の技術と知識が詰め込まれた総合芸術たる場であった。本書ではイタリアに現存する/した名庭園の数々を読み解いていく。
庭は移りゆくもの。流行によって、持ち主によって、時間の経過と共に姿を変えることを宿命づけられている存在である。イタリアでも古代から中世を経てルネサンスに至り、庭園に求められる様式や要素、用途は当然ながら変化した。冒頭ではこの経過を丁寧に辿る。西洋庭園の特徴として画一的に語られがちな「閉じた庭」「整形された庭」ではない、今に通じるランドスケープ・デザイン的感覚や借景の要素など、庭園と遠方風景を共に眼前に収める意識を大いに見ることができる。
具体的な描写としては、『聖書』や『神曲』など文学上の庭園を読み解くところから始まり、カファ ッジョーロ、カレッジ、そしてかのメディチ家のヴ ィッラを経て、ヴァティカン「ベルヴェデーレの中庭」の広大なランドスケープ・デザインが紹介される。そして誰もが知るヴィッラ・デステをクライマ ックスに、隆盛を極めたヴィッラの数々の詳細が描かれる。
本誌読者には特に、この庭園ディテールの描写の精緻さや図版の豊富さから、“現場”に関わる記述に耽溺することを提案したい。地勢の解説、施工計画、図面の分析、噴水を始めとした治水工事、植物園、建築家の意図や施主の用途や趣味などから、場所を越え時を越えて、イタリア・ルネサンスの庭園を肌身に感じ、当時の職人の苦労や、言葉に残らなかったこだわりも見えてくるのではないだろうか。
【庭NIWA 238号掲載】
桑木野幸司=著
発行/白水社
4,800円(税別)