種子をめぐる冒険を最新の研究成果と共に『種子』人類の歴史をつくった植物の華麗な戦略

「私たちは一日中、種子に囲まれて生活している。食物、燃料、酒、毒薬、油、染料、繊維、香辛料もすべて種子から作られるのだ」―かつて胞子植物や藻類が地球を席巻していた時代から一転して、現在の植物の約90%は種子植物だと言われており、人間に欠かせない存在感を放っている。この「種子」を巡る冒険を本書でナビゲートしてくれるのが、保全生物学者である著者、ソーア・ハンソンだ。

マリー・アントワネットの「パンが無ければケーキを食べれば良いのに」という台詞と小麦粉戦争は誰もが知っていても、その根底に古代文明から流れる品種改良の歴史が横たわっていることにはなかなか思いが至らない。メンデルがエンドウを用いて遺伝の法則を見つけたことは周知の事実だが、では何故メンデルはシダや苔で実験を行わず、エンドウを用いたのだろうか? 宗教改革とJ.S.バッハとテクノロジー雑誌『WIRED』を巡って語られる、コーヒー豆とカフェインの深い関係。コロンブスと香辛料の話題を巡る章では「トウガラシが辛くなった理由」というタイトルで博士論文を書いた女性学者が登場するというユニークさだ。

「種子」を巡るドキドキワクワクのミステリーツア ーとも呼べるエッセイだが、その語り口の軽やかさとは反対に詳細なデータと近年の研究成果が反映された充実の内容。気軽に手に取り、じっくり読みたい一冊だ。
【庭NIWA 232号掲載】

種子 人類の歴史をつくった植物の華麗な戦略 
ソーア・ハンソン=著 黒沢令子=訳
発行/白揚社
2,600円(税別)

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