庭園ファンと石造品愛好家とは重なることが多いように思う。庭園巡りの醍醐味の一つに、庭石や石造品にまつわる「物語」をひも解く楽しみがあるからだ。石造品が庭園に据えられた経緯や、その所有者が誰もが知る歴史上の人物であったという歴史にまつわるストーリー、石造品のデザインや石工の技巧、石材の石質や産地など興味は尽きない。
そのように燈籠や蹲踞をはじめとする石造品は、庭園の見どころとなる添景物として重要な役割を果たしているのだが、石造品に関する書籍はここ数年、新刊の発行がなかったのではないか。そのような意味でも、造園界にとって待望の新刊となるのが本書だ。京都・白川で石工(石大工)として西村石灯呂店・7代となる西村大造氏が、西村家の歴代の代表作、約60点を振り返りながら解説し、さらに京都芸術大学名誉教授で石造美術に造詣の深い造園家の尼﨑博正氏が石工芸の美しさとそこに込められた技巧、さらに茶人との関わりにも触れた解説文を寄稿するという、専門性の高い内容となっている。
西村家の歴代、特に5代・光造氏と6代・金造氏が近・現代の日本の石工芸において果たした役割は大きい。その5代、6代をはじめとする西村家歴代の仕事を知ることは、日本の石工芸作品の最高峰を知ることにもなる。そのような意味でも造園関係者にとって、本書の資料的価値は高く、必読の書といえるだろう。加えて、専門性の高い内容だが尼﨑氏の流麗な解説文が読み物としても楽しめるため、業界を超えて幅広い人たちにも勧めたい一冊である。
石工芸の伝統と美西村大造=編著
尼﨑博正=執筆
発行/淡交社
定価/2,420円(税込)