本書は『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』の著者の最新作だ。ドイツで20年以上、森林管理を務めた著者の愛情ある言葉で語る森の世界は、ロングセラー本となった。今回は、ドイツにおける森林と気候変動のつながり、経済と結び付く林業の盲点をつく。エコへの意識が高まる今、企業における植林・木材活用は「環境に優しい」というポジティブなメッセージで世界中に広がる。だが本書は、そこに疑問を投げかける。
筆者は「森は地域の気温や雨量を調整する」といった天然林(土中も含めた)が持つ「気候調整力」に注目している。だが、その大きな役割が認識されない裏側にあるのは、植林・木材活用の舞台となる「伐って、つかって、植える」、人工林の存在だという。多くの森林改革や林業がここに依存し、間違った生態系、企業イメージ向上といった短絡的な考え、動物や農業を含めたあらゆる問題を生んでいることを指摘する。その循環の中での人間の木材活用と、森林への人の介入を減らした先に得られる森の気候調整力。どちらがより地球に寄り添える「創造」となるのか。ドイツの森林・林業の実情を知ることはきっと私たちのこれからにつながるはずだ。
森を前に、良かれと思って心を向けた小さなアクションが「小さな親切大きなお世話」(本書見出しより)となる可能性があるという意識は、これからは大切になるかもしれない。人間関係のように自然を手なずけるのではなく、ときに「待つ」。そんなシンプルなことが難しくある私たちの今はなぜかと考えてみたい。
樹木が地球を守っているペーター・ヴォールレーベン=著
岡本朋子=訳
発行/早川書房
定価/4,620円(税込)