庭2021年夏号No.243
連載-未来を植える人びと-第15回
取材・文=梶原博子


規格にとらわれない植木の魅力を引き出す

甲子園球場とほぼ同じ面積を誇る広大な植木農園。傾斜地にありながらも、回遊しやすい動線によって木々の表情がよく分かる。見せ方の工夫にこだわった畑づくりに腐心する若生植木農園所長の若生高明さんの挑戦に迫った。

3年程前、愛知の造園会社ランドスキップの溝口達也さんに庭の取材をした際に「関西に扱い樹種が豊富で、見やすい植木畑を持っている素晴らしい植木農園があるんですよ」と、推薦された植木生産卸の会社があった。それが今回紹介する神戸市北区にある若生植木農園である。
 本来の連載では、毎回現地に赴いて農園を見学しながら取材をしているが、コロナ禍の緊急事態宣言が発令されている状況にあり、今回はリモートでの取材となった。
 「どうも、こんにちは」とパソコンの画面越しに笑顔で取材に応じてくれたのが、若生植木農園の所長の若生高明さんだ。同社は昭和27年に高明さんの叔父が創業。現在は兵庫県宝塚市に本社があり、高明さんの従兄弟の若生武さんが緑化樹木の卸売業、庭園樹の販売、付帯植栽工事を請け負う「若生商店」の代表取締役社長を務めている。
 「現在の農園は、叔父が昭和45年に山を切り開いて整備したと聞いています。神戸市は六甲山の山頂を境に北と南で気温に差があります。冬場はマイナス5℃になるほど寒さが厳しい土地です。土壌は関西特有の粘土質と瓦礫が混じった真砂土で、黒ボク土の関東に比べると、植物を育てるという意味ではあまり豊穣な土地とは言えません。本社は宝塚ですが、住宅地にあるため広い農園管理が大変なので、山間部の神戸市北区近くに植木の畑を持っている会社がいくつかあります」と高明さんが、この土地の環境について教えてくれた。
 同社は農園を開いた当初は高度経済成長期の波にのり、・・・記事の続きは、庭No.243の紙版・電子版で。

神戸市北区の山間部に位置する若生植木農場。神戸まで車で30~40分、大阪や京都は1時間程度移動できるため、関西の都市部での庭づくりの供給先として、多くの造園家が植木を買いにやってくる。
園内には椅子とテーブルが置かれている。設計のイメージを練ったり、休憩できるスペースとして来園者に開放している。
農園の中は回遊できる道が整備されている。
関西は高低差のある住宅地が多いため、木は下からだけでなく上から見た時の枝ぶりの確認も大切であり、斜面地に植えた植木で見え方の確認をすることができる。
高木の運搬の様子。この農場では6人のスタッフが植木の管理にあたっている。
秋には落葉樹が紅葉する景色を見ようと一般の客も見学に訪れる。
若生高明(わかいき・たかあき)

若生高明
わかいき・たかあき|株式会社若生商店・若生植木農園所長。 1971年兵庫県宝塚市生まれ。1994年関西大学社会学部卒業。食品メーカーで2年間勤務した後、叔父が経営する若生商店に入社。甲子園球場とほぼ同じ面積の1.3haの敷地に約200品種7000本の植木を育て管理している。同社は、植木の生産と卸売販売のほかに、付帯工事も請け負う。
株式会社若生商店(兵庫県宝塚市)

       【地図から探す植木生産者】

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