庭2018年冬号No.233
連載-未来を植える人びと-第5回
取材・文=梶原博子


脇役がいてこそ輝く 
主役を引き立てる常緑樹

公共事業から民間の都市開発まで、豊富な材料によって緑化事業を支えている山武伊藤植木園。常緑高木や垣根材、下草類までバリエーションを揃え、都市部の多様性のある森づくりをサポートする生産地を訪ねた。

成田国際空港から南に20分ほど車を走らせた、千葉県山武市にある山武伊藤植木園を訪ねた。今回、植木の農場を案内してくれたのは4年前に2代目社長に就任した伊藤日出男さんだ。山武市はのどかな田園風景が広がり、隣の八街市、富里市も合わせた落花生の生産地としても知られている。
 「このあたりは落花生やスイカなどの野菜の生産地ですね。植木生産をやっているのはうちと仲間うち数社だけですよ。ここから東の匝瑳市や旭市が仕立て物の産地として有名です」と伊藤さんが教えてくれた。同社の創業は1970年代。農家だった伊藤さんの父がシラカシやマテバシイ、タブノキなどの常緑高木の生産を始めたのがきっかけだった。高度経済成長の追い風もあり、公共工事にこれらの樹木が大量に必要とされるようになり、農場や生産量の規模を拡大していった。伊藤さんは造園の専門学校を卒業後、数年間、外の植木生産農家で修業を積んだ後、25歳で家業を手伝うようになった。現在売り上げは生産と卸しの半々で、公共事業のほか、民間企業の都市開発にも携わっている。「扱い品種は約300品種で、農場面積はポット物で7ha、路地物で10haになります」と話し、山武市内に点在する植木農場へと案内してくれた。

常緑植木のポット物栽培で季節を問わない出荷に対応

  車の窓から田園風景を眺めているとあちこちに赤茶色の土の畑が見える。
 「いわゆる赤土ですね。このあたりは茨城と同じく関東ローム層で、ミネラルも豊富だから野菜の栽培、そして常緑高木の生産にも適しているんですよ。春先、強風で畑の土があたり一面に舞う現象をこのあたりでは〝やちぼこり〞っていうんですけれど、・・・記事の続きは、庭No.233の紙版・電子版で。

マテバシイの仮植場。10年ほど前に登場した不織布製のポ ットによって、植木生産と管理方法が革新された。
トレーに種蒔きした常緑高木の芽。1つのトレーに数100本の芽が出る。
トレーから鉢上げした苗木。シラカシやヒイラギなど、安定して需要がある品種は毎年数千個ものポットを仕込む。
従来のビニールポットは水や空気を通さなかったが、不織布ポットは水も栄養も浸透するため、路地にポットごと仮植すれば、根がポットを貫通して土からも水分や養分が得られ、元気な植木が育つ。
山武伊藤植木園の出荷場。最近は1~2mの苗木ならば10本単位でネットに梱包して宅配便で発送することが増えている。
レイランディーの苗木。トレーで育てた苗木をポットに鉢上げして、成長したら大きいポットに移す、という工程を繰り返す。
露地栽培のレイランディー。売れ残った苗木の中から状態の良いものだけを残して路地で育てる。高さが求められる垣根材としての需要に応えるため、その他の樹種も同様に時期が来たら選抜した苗木を路地栽培へと切り替えている。
出荷を待つアオキ。その他、日陰に強いセンリョウ、マンリョウなどの低木や下草の生産にも力を入れている。
まとまって出荷される1.2~2mほどの常緑高木のポットが並ぶ圃場。今年は雨が少ないため、自動潅水でたっぷりと水を与えているという。
伊藤日出男(いとう・ひでお)

伊藤日出男
いとう・ひでお|山武伊藤植木園代表取締役。1974年千葉県山武市生まれ。造園専門学校を卒業後、数年間の修業を経て、25歳で家業を手伝う。2014年に代表取締役就任。現在、約300品種の常緑高木から低木、下草類のポット物と路地物の生産と卸し売り販売を行う。公共工事、都市開発、マンション、住宅など、さまざまな現場に材料を供給している。
山武伊藤植木園(千葉県山武市)

       【地図から探す植木生産者】

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