自然の恵みを活かす食の生産現場の建築『フードスケープ』図解 食がつくる建築と風景

「フードスケープ」とは、耳慣れない言葉だが、食がつくる建築と風景のことを本書では指す。著者は若手建築家。学生時代にイタリアに留学し、スローフードの文化に触れ、イタリア各地の食の生産現場を訪れた。そこで発見したのが、光や風、熱を巧みに調節し、自然の恵みを生かして、ワインや生ハム、バルサミコ酢などの美味しい食品をつくる建築物だった。そうした「人のためだけの建築ではなく、自然を活かしながら食をつくるための建築」に着目し、イタリアと日本の食の生産現場16カ所をリサーチして、まとめたのが本書である。

例えば、イタリア北部のカレマ村のワインづくりでは、ぶどうの段々畑に、石柱のパーゴラが並ぶ。石柱は日中に蓄えた熱を夜に放射し、冷気からぶどうを守る暖房の役割を果たすのだ。石柱が並ぶ畑は中世の回廊のようにも、地面から生えたキノコのようにも見える。こうした風土と共にある、知恵と工夫を積み重ねた結晶のような風景が、美しい写真と精緻な図面により紹介される。丁寧に環境を読み解き、食品ができるまでのプロセスを図解する優れた観察者としての視点は、空間と時間のスケールが大きく、建築家というよりランドスケープデザイナーに近い気もする。

本書がユニークなのは、伝統的な食の生産現場が、建築や食をはじめとした現代社会への批評となっていること。歴史家の藤原辰史氏や建築家の塚本由晴氏との対談で、その問題意識が明らかになっていく。環境と人の営みの間にある庭を考える時、フードスケープに学ぶことは大いにあるのではないだろうか。
【庭NIWA 254号掲載】

Foodscape フード スケープ 図解 食がつくる建築と風景 
正田智樹=著
発行/学芸出版社
定価/3,300円(税込)

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