駅弁の飯の上に飾られた一枚のモミジの葉。日本ではさして特別でもない風景に著者が出会ったエピソードから始まる日本版序文は、日本という土地や気候に根ざした文化が、いかに森や木々と深いところで繋がっているのかを気づかせ、木々の歌を聴く旅に、ゆるやかにわれわれを誘ってくれる。
本文はエクアドルのセイボから始まり、アメリカやカナダの植生であるバルサムモミ、サバルヤシ、ハシバミ等、そしてイスラエルのオリーブの生態系が紹介される。最後の章を飾るのは「ゴヨウマツ」だ。盆栽の木は、自然の生態系から切り離された存在ではないのか?それを何故本書で取り上げるのか? 最終章に「盆栽」がある意味とはなんだろう? これらの疑問を解きほぐす鍵の一つが、本書全体に流れ続ける「関係性」というキーワードだ。
顕微鏡と望遠鏡を瞬時に切り替えるかのような視力と、空、地上と地中深くを移動しながらあらゆる大きさの音に気づける聴力。ハスケル氏の持つ驚くべき“解像度”のセンサーを通して、森や木々、動物たち、そして人間を含む包括的な意味での「生態系」を鮮やかに感じられる一冊となっている。
【庭NIWA 236号掲載】
D.G.ハスケル=著 屋代通子=訳
発行/築地書館
2,700円(税別)