「茶席」「茶室」という言葉を聞いたときに、現代の日本ですぐに連想されるのは抹茶を嗜む空間ではないだろうか。しかし幕末から明治維新のころ、社会的変化に伴い、いわゆる「茶道(抹茶)」は、経済的後ろ盾を無くし衰退していた。一方で目覚ましく台頭したのが「煎茶」である。近代に生まれた数寄屋の空間を、この「煎茶」という視点から読み解くのが本書である。
本書は、中心的な執筆者となっている5名(尼﨑博正、矢ヶ崎善太郎、麓和善、六世 小川後楽、武藤夕佳里)で、100件以上の煎茶空間を調査した結果の集大成であるというから、膨大な仕事量だ。更に4名の執筆者を加え、造園・庭園史や建築史はもちろんのこと、煎茶、美術工芸までの広範囲に渡る専門性から、煎茶空間を考察している。
本書の最後には付録として「煎茶的要素を含む数寄空間一覧」が収められている。北は山形県から九州の大分県まで、全47の煎茶空間の中には、大名庭園として知られる水戸偕楽園、岡山後楽園、栗林公園を始め、涉成園、蘆花浅水荘や朝倉彫塑館など、一般公開されているものも多く含まれている。
これまでの先入観を捨て、本書の内容をたぐりながら現地を歩くことで、文人趣味、煎茶趣味の近代の香りを「再発見」することができるだろう。
【庭NIWA 235号掲載】
尼﨑博正、麓和善、矢ヶ崎善太郎=編著
発行/思文閣
5,500円(税別)