「悟りの窓」を思わせる表紙をのぞきこむと、そこには無鄰庵の景色が広がっている。作庭したのは七代目小川治兵衛。通称、植治だ。本書はその直系にあたる次期十二代、作庭家・小川勝章が、庭園の見所を独自の感性でもって案内してくれる、庭園ガイド本だ。大仙院、源光庵、天龍寺、二条城、彦根城、涉成園、桂離宮など、京都・滋賀の30の名庭を巡る。
一般的なイメージでの「ガイド本」と違うのは、これが専門家からの一方的な「庭園講義」ではなく、聞き手である京都新聞社・仲屋聡氏との会話を収めたものであることだろう。仲屋氏から湧き出てくる「これだけの素晴らしい庭の主人となったらどんな感じがするでしょうね」といった感嘆の言葉や「梅雨時の庭の楽しみは何でしょう」など素朴な疑問は、庭園鑑賞の際に頭によぎる思いを代弁し、本書の読み手と小川氏との仲を取り持ってくれている。
応える小川氏の語り口は柔らかいが、話題は庭の植栽、石組み、見立て、視点場、そして宗教観や思想まで多岐にわたる。四季折々の庭の楽しみ方について語りつつ、時には謎解きのように、庭園の見えない部分や失われた造作、行われたであろう「遊び」に思いを馳せることで、目の前の庭から見えない庭へと鑑賞者を誘う。
庭巡りの後には、5本の対談録が収録されており、造園学者の白幡洋三郎氏をはじめ、建築家や華道家、日本画家、火山学者などの専門家たちと、小川氏が伝統文化について議論を深める、ボリューム感のある内容となっている。
【庭NIWA 231号掲載】
京都新聞社=編 小川勝章=著 仲屋聡=文
発行/京都新聞出版センター
1,800円(税別)