日本エクステリア学会(東京都、吉田克己代表)は7月12日、同学会歴史委員会のメンバーである山澤清一郎氏による講演会「沓脱の変遷と役割に関する研究―庭園と建築の中間領域を中心に―」を東京・江東区の清澄庭園大正記念館で開催した。山澤氏は2021年に京都芸術大学大学院において博士号を取得。今回の講演は、山澤氏が同大学院の修士および博士課程で取り組んできた研究テーマを基に、日本文化における建物と庭の中間領域で行われる沓脱(くつぬぎ)という行為を歴史的にひもといていった。
沓脱―身分を分ける装置、越境のための行為
山澤氏は1978年生まれ。30歳で静岡県富士市にカレンフジを設立し、エクステリア・造園工事の設計・施工を行っている。「庭にテラスなどをつくっても、数年後に訪れてみると使われていないことや、物置になっていることがあった」という経験から、自らの設計に役立てるために35歳の時に大学院へ入学、学問的な視点から家と庭をつなぐ中間領域に着目して研究をスタートした。
大学院修士課程では、現在のエクステリアにつながる庶民庭園を研究。大正時代における庭の考え方(実用主義庭園と伝統的日本庭園)や計画、欧米から導入されたテラスなどを中心とした庭の構成についてまとめた。
この研究の中で、山澤氏は日本における独特の文化・風習である履物の脱着に着目する。海外の事例や製品をそのまま日本に導入するのではなく、日本独特の“履物を脱ぐ”という行為を理解したうえでなければ、現在の中間領域の設計にも活かせないと考え、大学院博士課程では、沓脱という行為に着目してさらに研究を進めた。
講演会では、山澤氏が取り組んできた大学院での研究を順を追って紹介。絵画や文献の歴史的資料を基に、履物(沓や草履)の歴史、板や石などの沓脱の歴史的変遷から、身分を分ける装置としての役割、越境のための行為などの文化的背景を解き明かしていった。
学術的な講演内容であったが、現在でも続いている日本の風習・文化であるため、会場からは「玄関で靴を脱ぐようになったのはいつからか?」「式台と沓脱の違いは?」などの活発な質問が出され、履物の脱着に関する文化的視点での意見が交わされた。