浅めることでも理解する庭のかたちと庭師の生態『庭のかたちが生まれるとき』

庭に安らぎを感じるとき、私たちは庭の何を見ているのか―。何か意図を持って配置された石や植物、そして地形。本書はそれらの「そこに、そうある」という状態に「なぜ」の問いをかけたものである。庭師・美学研究者である筆者は、新しい感覚で庭の造形と倫理に迫る。作庭の現場からフィールドワークをもとに、庭のつくられるプロセス、庭師という生態を徹底的に観察・記録し、一つの庭園論が示される。

舞台は京都福知山の観音寺・大聖院庭園の作庭工事。筆者は現場に通い、庭師の試行錯誤を目の前に、庭のかたちが生まれるその瞬間を丹念に解読していく。庭のかたちや石組の展開、物体の配置に迫る「庭園の詩学」、職人の振る舞いや話法、物や道具との身体性など庭師たちの生態を追う「庭師の知恵」と大きくこの2つの視点から語られる。庭師が石を据えるといった瞬間が、ミクロな視点かつスローモーション動画のような時間軸で詳細に綴られる。

「自然石」が「石を据える行為」によって「景石」となる。この石という変わらない存在が一つの行為によって意味を持つ。そこに何が起きているのか。その奇妙さと見えない関係性づくり、庭をつくる行為の不確実性が明確化される。現場に読者を呼び込み、臨場感とともに映像化された揺らぎのある庭の姿が見えてくるであろう。

読了後は、庭を見る解像度が上がり「見えなかったものが見えてくる」、そんな感覚が味わえるはずだ。庭における関係性を促す行為は編集的とも言え、作庭のプロセスがあらゆる分野に響くことも期待させる。
【庭NIWA 254号掲載】

庭のかたちが生まれるとき 
山内朋樹=著
発行/フィルムアート社
定価/2,200円(税込)

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