みどりと建築の親密な関係性の先にあるもの『みどりの空間学 36のデザイン手法』

『みどりの空間学』。書名からどのようなみどりのある空間を想像しただろうか。植物が彩る室内、住まいの庭、商業施設やまちなみ。近年ではあらゆる場でみどりへの期待が高まるなか、生き物であるがゆえのハードルや価値の共有について考える機会が増えている。

著者は本書で、「みどりと建築の親密な空間」、そしてそこにある「関係性」に主眼を置き、自作を含む世界から日本国内までの空間事例とともに、36の手法を紹介している。インテリア、建築、ランドスケープそしてまちづくりまで、包括的なアプローチを得意とする著者ならではの領域を超えた空間の読み解きがなされる新しい資料集だ。

多様なスケールで展開される事例のなかで、空間の美しさや心地良さの背景に迫り、創造された関係性の魅力を具体的に分析・言語化していることが特徴的である。建築はどのようにたたずみ、みどりはどのようにその空間をまとうのか。情緒的な感覚を大切にしながらもその理論や手法、ディテールやマテリアルなどについて、偏りのない視点でまとめられている。写真や植物図鑑を含めた豊富な情報が丁寧につなげられているため、紹介された空間を歩くように読み進められる。実務者は、スケッチや手書き図面、言葉の表現から新しい発見を得ることができる。小型本のサイズ感と溢れるスケッチがあいまって、みどりのある空間について考え思い巡らす時間こそ、豊かな時間であることを認識させられる。空間を創造する仲間たちと読み合いたい一冊である。
【庭NIWA 250号掲載】

みどりの空間学 36のデザイン手法 
古谷俊一=著
発行/学芸出版社
定価/3,300円(税込)

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