日本近代における植木屋・園芸業の歴史を、横浜植木株式会社にフォーカスを当て、資料を紐解いたのが本書だ。明治24年(1891年)、それまで居留外国人により独占的におこなわれていた園芸植物などの輸出入を邦人の手に奪取すべく設立された横浜植木の創業史は、まさに手に汗握る展開だ。
当時彼ら外国人に「雇人植木売込者のものども」としか認識されていなかった園芸業、植木屋の士たちだが、横浜植木設立後すぐに海外支社を開設し、確固たる商流を築いた。また国際的な博覧会に出品するなどして、グローバル市場でのビジネスを積極的に進めていった。
本書には国内外の展示会のために作成されたチラシやセールス・パンフレットがフルカラーで多数掲載されており、当時の輸出入で何が好まれていたのかを知ることができる。特にユリに関してのエピソードは多く、明治27年(1894年)に出版した『百合花選』などから、当時の欧米でいかに日本のユリが愛好されていたかがうかがえる。
横浜植木は今年で設立130周年。植木や園芸の売上が落ちた戦後は、新事業への投資を厭わず野菜などの育種に取り組み、また長年海外との交渉で培ってきた語学力を生かし、市場開拓能力を駆使して存続してきた。激動の時代を掻い潜ってきた先駆者たちのビジネスが、専門知識、得意分野などを周到に計算した戦略的なものであることに、読み進めるたび驚かされることだろう。
【庭NIWA 245号掲載】
近藤三雄・平野正裕・松山誠・粟野隆=著
発行/誠文堂新光社
定価/4,400 円(税込)