彫刻家、そしてモダン・アートの巨人であるイサム・ノグチを、『庭』という視点から思考する希有な視点を与えてくれる本書は、2017年に展覧会『20世紀の総合芸術家イサム・ノグチ -彫刻から身体・庭へ-』を開催した大分県立美術館の館長で、イサム・ノグチ日本財団学芸顧問の新見隆氏によるもの。
テラコッタの模型から大規模な彫刻作品やパブリック・アート、また代表作品である数々の「あかり」、アトリエ、そしてモエレ沼公園などランドスケープ芸術まで、新見氏のキュレーションによってふんだんに取り込まれた作品写真は、示された「順路」に従って眺めているだけで、それ自身が力強くストーリーを雄弁に語り出すものばかりだ。
本書のユニークさはしかし、序章にて「庭とは、ノグチにとってのある必然、宿命的とも言えるような、自らのレゾン・デートルにかかわるものだったと、私には思えてならない」という、新見氏の強い思いとノグチの芸術とが呼応しているところにあるだろう。
日米の混血として、世界のいずれにも帰属できず、あらゆる境界線上で孤独と旅をし続けたイサム・ノグチ。追い求めた居場所は、誰のものでもない、そして誰のものでもある『庭』。ノグチの示す、孤独で光に満たされたどこでもない宇宙観と、躍動する彫刻群とが身体性をもって響き合った時、その『庭』の時間は初めて動き出すのかもしれない。読み終わると、無性にノグチ作品を見に行きたくなる一冊。
【庭NIWA 231号掲載】
新見隆=著
発行/武蔵野美術大学出版局
3,200円(税別)