小誌でもおなじみの人気造園家、荻野寿也さんによる初の著書。住宅に“緑”を取り入れるためのアイデアが85も紹介されている。涼やかでやわらかい、繊細な美意識によってつくられていると思われる荻野さんの庭。作品集や事例集のようなビジュアルで見せるのではなく、細分化し、実践的なノウハウにまで落とし込み、一般の人も取り入れやすい形にしている。
本書の特徴はステレオタイプな造園の思い込みにとらわれず、今の時代に合った植物のあり方を自由な発想で提案していること。「車を美しく納める」庭や「緑のお裾分け」をする外庭とベンチ、使えるウッドデッキのつくり方、バスタイムを彩る坪庭、障子越しに楽しむ樹木のシルエットなど、暮らしの中で身近に緑を楽しんでもらいたいという気持ちが溢れている。
建築家との協働が多い荻野さんならではの、建築を生かす庭づくりの手法も満載。「植栽計画は立面図を見て」「建築という器に庭を生ける」「生け花のように主軸を決めて」など、建物を美しく彩り、周囲の風景とつなぐ、荻野流メソッドが解き明かされる。
これまでに培った設計手法や積み重ねたテクニックを分解し、惜しみなく公開した、オープンマインドな一冊。どの写真を見ても、美しく、気持ちが良く、これから日本のあちこちに、荻野さんが種をまいた景色が広がっていく予感がする。
【庭NIWA 228号掲載】
荻野寿也＝著
発行／エクスナレッジ
2,300円（税別）
