時代と地域の足跡をたどる建築を旅するための案内書『建築を旅する』歴史と地域を楽しむ「建築ツーリズム」のすすめ

 「建築は、旅の目的になります」そんな一文から始まる本書は、前号のNIWAカレンダーでも紹介した「東京建築祭」の主催者・倉方俊輔氏による一冊だ。建築を内観や外観として鑑賞するだけでなく、その土地の歴史や風土、産業、文化、暮らしへとつながる入り口として捉え、日本各地の建築60件を紹介している。

 いま各地で盛り上がりをみせる「建築祭」、そしてその先にある「建築ツーリズム」。幕末から現代まで、そして北海道から沖縄まで、日本の豊かな地形をなぞるように選ばれた学校や美術館、駅舎、庁舎など多彩な建築が収められている。均質化へと向かう近現代だからこそ、山や海、川、その土地に根ざした生業や気風が凝縮して現れるのが建築だと筆者は語る。専門知識がなくても、写真を眺めながら旅をするように楽しめる一方で、建築のディテールや見どころへの視点もバランスよく紹介されている。
「notes」では鑑賞のポイントに加え、その建築を起点に周辺へと視野を広げる手がかりも示されている。建築を単体で味わうだけでなく、時代、地域、設計者へと興味がつながり、新たな旅のきっかけとなる。実際にその場所を訪れ、空間に身を置く楽しさを伝えてくれる本書は、建築ツーリズムの魅力を感じさせる。

 自身の住む地域にある見慣れた建築も、本書を手に訪れれば、まちの景色が少し違って見えるかもしれない。建築が旅の目的になるように、庭園もまた、人をその土地へ導く存在であってほしいと思わせてくれる。

【庭NIWA 264号掲載】

建築を旅する
倉方俊輔=著
発行/イカロス出版
定価/2,200円(税込)

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