庭園の維持管理  樹木の剪定について  野村 脩/東海造園
名勝「 無鄰菴」。V字形に取り込んだ借景が、一時より大きくなった。
名勝「 無鄰菴」。V字形に取り込んだ借景が、一時より大きくなった。
名勝「 無鄰菴」。修復によりV字形に取り込んだ借景の面積が広くなり、竣工当時を思わせる景観となった。

 現代に残る各庭園は、作庭当時の意匠をどの程度留めているのであろうか。だいぶ前になるが、京都のある文化財庭園の樹木、石材の整備が実施された。明らかに実生と判断できる樹木や、その実生の樹木等によって動かされてしまった庭石などの伐採や据え直しが行われた。

それにより、樹木に関しては今まで見えなかった景色が見えるようになり、景石にあっては焦点になる部分の景がはっきり浮き出た部分もあった。庭園の維持管理においては、作庭当時の情景を想像しながら樹木、石材などの整備を行うことが、最も重要であることが分かる。

 

 

流れの石
管理不足の場合は水草が繁茂して、赤石が見えなくなってしまう。

 

80年ほど前の関東近郊は武蔵野の雑木林に覆われていて、その林の中には小さな流れや池があって、下草には茶花としても使える山草が芽を出すという風景が人々の生活の中に溶け込んでいた。当時、コナラやクヌギなどは伐採され、都会の燃料となっていた。その切り株から芽を出したのが株立ち(叢立)となり、現代庭園の中の樹木として、一つの景をつくっている。このような里山の情景をいち早く庭に取り入れたのが、飯田十基師であった。

 

 

 

 

 

昭和初期から一世を風靡し、東京では飯田氏と京都の作風である岩城亘太郎氏とが双壁をなし、庭師を志す若者達の大きな目標となっていて「如何に近づいて知識を盗もうか」と思案したものであった。

同時にこの二人が造園文化の価値を大きく引き上げた。現在、その弟子たちが全国にあられこぼしのように散らばって、各地で活躍している。

自然風庭園の剪定管理は、その樹木の特性や樹形を生かして行わなければならない。例えばケヤキのような樹形の樹木は、箒状樹形を崩さないように枝抜きをし、先も太い部分でいきなり切らず、代わり枝の素性の良い物を残して枝抜きをしていくという方法で剪定をする。太いところでいきなり切ってしまうと、翌年、切ったところから何本もヒコバエが出て、また剪定しなくてはならなくなってしまうからだ。樹形も変形してしまい、ケヤキではなくなってしまう。

サツキの刈り込み
流れのセキショウや刈り込み物のサツキなど手入れが行き届いた管理により往時の景色が復元された。

 

これを参考に、雑木類の剪定をしていけば間違いがない。また植栽では、ソロの寄せ植え盆栽を頭に浮かべて頂きたい。植栽方法は中心の木の選択をしたらその芯に添わせ、いくぶん斜形に植栽をしていく。次の株も添わせ、斜形に植えこんでいくこのテクニックは、生け花のセンスで幹の線をそろえて植え込むというものだ。私がまだ小僧であった時分に、山の中の植栽で植え穴を掘り、その中へ樹木を入れ師匠に向きを見て頂いたことがあった。教科書どおり真っ直ぐにしゃんと立てたのだが、叱られてしまった。周りの木の向きに合わせて傾かせなければいけないと、その時知った。この経験から、木は垂直に植えるものだという概念から脱却でき、自然風庭園作庭の入門をさせて頂いた覚えがある。

このようなことからも、日本の自然風庭園は四季の移ろいを感じさせ、その情景を物語として生活の一部に取り込み、さらには自然界の生き物たちの憩いの場にもなっている。つまり、日本の自然風庭園は生態学的な庭であり、ドイツのビオトープに並ぶ内容のある庭園様式ではないかと考えている。

庭園の管理として樹木管理には年間、最低でも1回の管理が必要である。作庭した時の設計意図をいつまでも保ち、庭園の価値を損なわぬよう維持継続していくのが、飯田師の弟子であった我々の役割でもある。

野村 脩/東海造園

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